熟慮期間経過後に発覚した借金における相続放棄について
 

こんにちは、今回は「熟慮期間を経過した後に発覚した借金の相続放棄」についての相続事例をご紹介します。

◆ご相談内容◆

・20年来没交渉であった父が亡くなったと、隣町の町役場から納税義務承継通知書が届いた。
・法定相続人は母と子である私と妹の計3名になるが、3名ともにこの20年間父とは一切関わりはない。
・通知書記載金額については母が支払ったものの、その他の父の財産について知る由もなく、相続に関しそれ以上の対応は特にしていない。
・ところが3ヶ月ほど経過した後、消費者金融から父が借り入れたとする計300万円の支払督促が届いた。
・父は行方をくらました後に借金を作っていたようで、とてもではないが払える金額ではなく、相続人全員で相続放棄をしたいと考えている。

◆相談を受けた弁護士の見解◆

相続放棄に関して、民法第915条1項は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、……放棄しなければならない。」と期限を定めています。
そのため、相続の開始を知ったとき(=納税義務承継通知書を受領した時点)からすでに3ヶ月の熟慮期間が経過している当ケースでは、原則として相続放棄を行うことはできないようにも思われます。

もっとも判例は、相続人が負の相続財産である被相続人の保証債務の存在につき、相続の開始を知ってから1年後に認識するに至ったという事案において相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるにあたり相当な理由がある場合には、当該保証債務の存在を認識した時または通常認識し得た時を相続放棄の熟慮期間の起算点とすることを認めています(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。

この点、当ケースは相続財産が全く存在しないと信じていたのではなく、そもそも被相続人にいかなる財産があったのかを認識していなかったのであり、上記の判例とは事情を異にしています。
しかし、相続人に対し相続財産の内容を把握した上で放棄すべきか否か判断する機会を与えるのが判例の趣旨だとすれば、今回のケースにおいても貸金債務の存在を認識した時点からの起算が認められる可能性はあるといえます。
したがって、相談者様の相続放棄についても認められる可能性があります。

ただ、相続放棄にあたっては、相続の発生を知ってから3ヶ月以内に申述するのが原則的なルールとなりますので、例外的に3ヶ月経過後の相続放棄を認めてもらうためには、申述書において、
(1)いつ相続の開始を知ったのか、(2)どのような理由によって3ヶ月以内での相続放棄ができなかったのか、言葉を尽くして説明する必要があります。

なお、相談者様のお母様は被相続人の税金を支払っていますが、お母様がご自身の財産でこれを支払う分には、法定単純承認事由としての「処分行為」(民法第921条1号本文)にあたらないため、相続放棄ができなくなるものではないと考えます。